― 会いに行く ―
― もうすぐだ ―
― 貴様の魂、その力 ―
― 今度こそ、我が物にしてやる ―
― もうすぐだ ―
第1話 たまご
科学文明が発達していく世の中で未だに
「幽霊」というものや「妖怪」というものを信じている人間は一体どれだけいるのだろうか。
はるか昔、日本にはそういった「心霊現象」の存在が本当にいるとされていた。
スサノオノミコトの話や8の頭を持つ八岐大蛇などが有名である。
これが作られた話だったとしても、人はまるで本当に存在していたかのように錯覚を起こし、信じるようになる。
このほかにも妖怪というのは、山姥であったり雪女であったり鬼であったり、種類が様々だ。
今では妖怪という言葉はあるもののその存在は昔よりもしぼんではいるが
似たような存在で大きく知られているのが幽霊だ。
現代人にとっては「心霊写真」が一番身近なものだろう。
そこにあるはずがない物が写っていたり、またはなかったり。
この現象は完全に科学的に証明されていない。
だから人は未だに「妖怪」や「幽霊」といった存在を信じているのだろう。
実際に見たことが無い人間でも
幽霊や妖怪の存在を信じようとするのならば
実際に見ることのできる人間が否定するのはおかしいことだ。
でも、それでも俺は否定をしたくなる。
妖怪?幽霊?なんだよそれってな。
学校が終わった放課後。
やっと勉学から解放されると生き生きして帰ろうとしていた俺を
幼馴染である星神織香に呼び止められた。
「助けてあげてほしいの」
そう言って。
こんな時、自然とため息が出てしまう。
仕方が無いけど、嫌だと思うから。
織香に自分の教室とはまた違う別の教室の前ま
で引っ張られるがまま連れてこられると
織香は周りを見回してゆっくり教室の扉を開けた。
一瞬、誰もいない教室かと思ったが
よく見渡してみると教室の片隅に座っている女子生徒がいた。
ただし、彼女の周りには何か違和感を感じる。
「洸大! 早く!」
織香に急かされて教室の中に入ると、違和感の正体はすぐにわかった。
彼女の周りには黒っぽい靄、もやみたいなものが全身を包んでいるのだ。
「しなこ!」
織香はそんな黒いもやを気にせず
その女子の下に駆け寄って、心配そうに彼女の体をさすっている。
織香だけでない、きっと彼女の他の友達だって同じ事をするんだろう。
黒い靄が見えているのは、俺だけなのだから。
「寒い・・・寒いよ・・・」
織香にしなこと呼ばれた女子生徒はガタガタと震えている。
「しなこ、もう大丈夫だよ。洸大が来てくれたから!」
しなこという女子の体をさすりながら、織香が俺のほうを見た。
「洸大、どう・・・?」
「どうって?」
「憑いてるのか聞いてるの!」
「ああ、うん。黒い靄みたいなのがその子の所にあるよ」
「じゃあお願い、洸大」
「はいはい」
小さくため息をついて、俺はその子の側に寄った。
とても寒いのか、しなこという女子は俺の顔を見る力もないらしい。
「苗字は?」
「高畑しなこちゃんだよ」
「了解。
・・・高畑さん、俺の声が聞こえる?」
高畑さんは震えながら、横目で小さく頷いた。
「よかった。すぐ楽にしてやるから」
そう言って微笑んで、俺は彼女の肩にゆっくり自分の手を置いた。
その瞬間、彼女を覆っていた黒い靄がまるで突風で煙が吹き払われるように消えた。
「・・・・あ、あれ・・・?」
高畑さんの震えがピタリと止まる。
「大丈夫?」
織香が優しい表情で高畑さんの顔を覗き込んだ。
「う、うん・・・なんか、マシになった。・・・な、なんで・・・?」
「それはね、洸大がしなこに憑いていた霊を追い払ってくれたからだよ」
「え・・・?」
高畑さんは驚いた表情で俺を見た。
「しなこ、幽霊とか興味無いから信じられない話って思うかもしれないけど、しなこには悪霊が憑いてたの」
「あ、悪霊・・・?」
「うん、悪霊」
「・・・そう、なんだ・・・」
そう口にしている割には、まだピンと来ない様子だ。
まあ、心霊的なものを信じていない人間が話を聞いただけではいわかりましたと頷きはしないよな。
「・・・まあ、信じるかどうかは別にして、あんた最近何かやったんじゃないか?
例えばそうだな、お札を誤って破ったとか、地蔵をこかした、とか」
「え?・・・あ・・・そういえば・・・」
「! 何かあったの?」
「えと…昨日、バイトに遅れそうだったから近道をしたの。
その時、地蔵を蹴っちゃった気がする」
「じゃあそれでだわ。そこに封印されてた悪霊が怒ったのね・・・」
「ふ、封印?」
勝手に納得している織香に、高畑さんの頭にはハテナマークが大きく出ていた。
「まぁ、とにかく。急いでいる時も地蔵とかそういう物には気をつけたほうがいいよ。
じゃないとまた気分が悪くなってしまうかもしれないからさ」
「う、うん・・・わかったわ。えっと、ありがとう千歳君」
「いいって。じゃ、俺はもう帰るから」
「しなこ、一人で帰れる? 送ってこうか?」
「大丈夫、なんかびっくりするくらい元気だから。また月曜日ね」
「わかった、じゃあね」
すっかり元気になった高畑さんを見送ると、織香と共に俺も学校を出ることにした。
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