学校を出るとすでに夕刻で、周りの景色がオレンジ色で照らされていた。
ほんの数分のつもりだったが、意外と時間は過ぎていたらしい。


「どんな悪霊だったの?」


先を歩く織香が振り返って、笑って聞いてきた。


「悪霊って言うほどモンじゃねーよ、低級霊。なんかモヤってした感じだった」

「ふうん・・・でも良かった、しなこすぐに良くなって」

「良くねぇ」

「な、なんで?」

「もし恐ろしいやつだったらって、ドキドキしてたってーの」

「大丈夫よぉ。お爺様も仰っていたじゃない。
今時千輝姫のいた時代のような奴は現代にはいないって」

「バカ、そんなのわかんねぇだろ!ていうか、あいつらの怖さを知らないお前が言うな!」

「はいはい、ごめんごめん」

口では笑っているものの、織香に反省の色はまったく見えない。
たく、他人事だと思って!

「じゃ、また明日ね!」

「え、あ、ああ・・・」

気がつけば自分の家の目の前に来ていた。

「バイバーイ!」


走っていく織香をため息まじりで見送ると、俺はすぐ隣にある大きな階段を見た。
相変わらず長すぎて先が見えていない。


「・・・・さて、疲れてるけど登らないとな」






気が遠くなるような長い階段に立ち並んでいる大きな鳥居ひとつひとつには『千姫神社』と書いてある。
この階段を登りきると、神社があって、そしてその横に俺の家がある。
この千姫神社は、かつて大妖怪達と戦ったとされる『千輝姫』を祀っている由緒正しい霊媒師の家系が住んでいる。
特に、俺の家系はこの千輝姫の直径の子孫だそうだ。
だから、そこいらの人間に比べると神通力というのが強いらしい。


階段を登りきると、爺ちゃんが枯葉を集めて掃除をしていた。

祖父、千歳春元。
親父の父さんであり、俺の祖父。
霊媒師一族でもかなりの力を持ち、その発言には力を持つ。
千輝姫直系の人間ということもあってこの手の人間に爺ちゃんの名を知らない人はいない。

だが、そんな祖父も俺にとっては「爺ちゃん」でしかなく
そんなに凄い人間にはどうしても思えない。

俺に気付き目があって、俺は笑顔で手を振ると、爺ちゃんは笑顔を返してきた。


「遅かったな」

「ああ、まあな」

「・・・少し気が落ちているが、もしかして祓ってきたのか?」

「え? ああ、まあ。織香の友達にちょっと憑いてたからさ」

「そうか。まあ、お前ならその手をかざすだけで大概の悪霊は去っていくのだろうな」

「何言ってんだか。これくらい爺ちゃんにだって出来るよ」

「バカを言うな。
手をかざすだけで悪霊が去るなど、千輝姫の力を受け継いでいるお前にしかできんわい」

「・・・・千輝姫、ねぇ」


はるか昔に存在していた大2妖怪を封印したという
この世界で語り継がれている千輝姫。
彼女の身体に憑き殺そうとした妖怪は
その身体に憑いた時に彼女の身体からあふれ出る神通力によってたちまち消滅し
彼女の放つ弓矢には何千匹という化け物が倒れていったという。


俺は、そんな千輝姫の力を受け継いでいる存在らしいのだ。

全く自覚がないけど。


「力というものは、生まれながらに持ち、精神が成長していく事に強力に育っていく。
だから巫女や宮司で祓いをするのは大概年寄りばかりだ。
だが、その誰よりもお前の力は強かった。
それは、我々と比較しても到底及ばないほどにな」


だからこそできるという力。
他の霊媒師には出来ない力。


「・・・もしかしたら」

「うん?」

「お前は、もしかしたらこの先に起こる何かのために生まれてきたのかもしれんな」

「その爺ちゃんの言葉で俺は何回死にかけたと思ってんだよ。もう嫌だぜ、修行なんて」

「バカ!修行をせずして霊媒師がなるか!」

「バカはそっちだろ!?
何度も何度も訴えてるが、俺が超怖がりになったのは爺ちゃんのせいなんだからな!!」

「な、なぁにぃ!?」


ここぞとばかり、俺は声をあげた。


「まだ3歳だった俺を有名心霊スポットに置き去りにして、自分は家でのほほ〜んと茶を飲んでたよな?
あの時、俺がどれだけ怖い思いをしたか!!
そして家に帰った時の俺がどれだけショックを受けたか・・・爺ちゃんにわかるか!?」


周りにはうようよ悪霊がいて、色んなやつが追いかけてきたりして・・・
どれだけわんわん泣いたか・・・!!
思い出すだけでも泣きたくなってくるっ・・・。

「バカ! 幼いお前を置いてこなければならなかった
わしの気持ちも理解せんか!
どんな思いでわしが・・・わしが!!」

「はっ! 理解できんね!
あんたは間違いなく優雅な時を送ってたよ!
帰った時のテレビを見て爆笑していた爺ちゃんのあの顔!
あー忘れねぇ!俺は一生忘れねぇ!!」

「んなっ・・・こんのバカ孫!」

「なんだよバカじじい!!!」




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