「どうして断定できるんですか?」


「尻尾を九本持っている妖怪は九尾しか存在しないからさ」


「どうして九尾だけしかいないんですか?」


「狐たちの中でも九の尾を得る事はなかなかできないんだ。
それぐらい九尾の力は強い、八百万が存在した時代だからこそ生まれた妖怪なんだ。
・・・洸大、君は春元さんから九尾の話を聞いたことはあるんだろ?」


「え? あ、まあ・・・それなり、は」


そう答えているものの、いざ思い出そうとしても洸大の頭の中には九尾の話など一切出てはこなかった。
幼い頃の記憶など、祖父による修行の事しか思い出すことができなくなっているからだ。
嬉しかったことも、楽しかったことも、千輝姫の話も・・・。
全て辛くて恐ろしかった修行で上書きされてしまっているのだ。


「・・・はぁ」


烏羽は洸大の様子を見て大きくため息をついた。


「九尾のことは、知ってるよな」


「それは、だって夢に出てきたし・・・お伽話にも出てくるし」


「・・・まさかそれだけの知識しか知らないのか?」


「うん」


断言する洸大に烏羽は全身の力が抜けるくらい肩をがっくり落として
ゆっくりと千輝姫と九尾の話を話し始めた。



「・・・九尾は八百万の片腕と呼ばれるくらいの強さを持っていた。
そんな九尾と戦ったのは洸大の前世である千輝姫だ。
九尾が大雨を降らせれば、千輝姫は祈祷で太陽の光を呼び覚ます。
九尾が熱い狐火を吐けば、千輝姫は持っていた武器を振ったその風で炎を消し飛ばすなど
千輝姫と九尾は激戦を繰り返していた。
ここまではいいな?」


「OK」


「千輝姫と九尾の戦いは、千輝姫の勝ちになる。
千輝姫の方が戦闘での考え方が一枚上手だったんだ。
そしてお伽話では九尾は千輝姫によって倒されたとなっているが、実際は違う。
千輝姫は九尾を殺したのではなく、封印したんだ」


「封印・・・って、なに?」


「今で言う霊眠のことさ」


霊眠、それは暴れる霊を鎮めること。
姉貴の「代わり身の術」と似たようなもので
地蔵等、物に霊を縛り付けて霊を鎮める方法のことだ。
それが霊眠と呼ばれている。


「霊眠は一時しのぎみたいなものだから完全ではない。
地蔵に霊眠させていたとすれば、その地蔵が破壊されてしまったらそこに霊眠させていた霊は再び復活する。
それと同じで、封印も完全ではない。
九尾は封印されていたんだよ、このたまごにな」


烏羽はそう言って立ち上がると、奥の机に置いていたたまごのかけらを持ってきた。


「どうして、封印が解けたんだろうね」


愛美はかけらをまじまじと見ている。
たまごの大きさ自体はダチョウのたまごくらいだ。


「それは・・・」


さすがの烏羽さんも口を噤んだ。
そう、問題はここなのだ。
本来なら存在できるはずのない妖怪があの倉庫にいたこと。
そして、その妖怪を倒したであろうこの九尾のこと。
どうして九尾が現世に再び姿を現したのか。


「・・・聞いてみるか」


洸大は立ち上がって、今もなおおもちゃで楽しんでいる九尾の元に向かった。



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