足音に気がついた九尾は、それが洸大だと分かるとさらに眩しい笑顔を見せた。


「あの、ちょっとその・・・いいか?」


一応、恐ろしい妖怪だったということで、少し言葉がしどろもどろになる。


「なあにー?」


九尾は緊張感の無い笑顔で答えた。
その様子にやっぱり少しだけ力が抜ける。


「・・・お前は、九尾・・・なのか?」


「うん! そーだよ!」


恐る恐る聞いたのに、九尾は思っていた以上に即答した。


「・・・じゃ、じゃあ。
どうして、また復活したんだ?」


「わかんない!」


「え!? わ、わかんないって・・・なんで!?」


「なんでって言われても、わかんないの。
九尾、どうしてここにいるのかなー?」


なんということだ、洸大はそう思った。
九尾であることは認めたのに、どうして復活したのか自分でわかっていないなんて。


謎だ、謎過ぎる。


洸大は助けを求めるように様子を見ていた烏羽と愛美の方を見た。


「夢の事、話してみたら?」


「夢か・・・」


洸大は再び九尾の方に向き直した。


「あの、夢の事は覚えていないか?」


「夢? 誰の?」


「俺の」


俺の夢を覚えていないか、なんて他人に聞くあたり変な質問だけど。


「うーん・・・」


九尾は口に手を置いて考え込んだが
しばらくするとさっきまで立っていた耳が急にペタンと閉じてしまった。


「わかんない・・・」


「・・・・・・・」


ここまで来ると、さすがに呆れるというか、なんというか。
洸大は苦笑しながら烏羽の方を見た。
烏羽もさすがに呆れている。


「でもね」


「え?」


「九尾、お兄ちゃんがケーヤクシャだっていうのは、ちゃんと覚えてるよ」


「!」


「えらい?」


「え、あ・・・うん、えらいえらい」


「えへへ・・・」


えらいえらくないの問題じゃないのだが、とりあえずえらいと言っておく。
契約者、それは夢で九尾が言っていたことと同じだ。
契約を交わした者の事を契約者というのだから。


「烏羽先生・・・どういう事でしょうか」


「わからないが・・・九尾は、もしかしたら封印転生をしたのかもしれないな」


「ふういんてんせい?」


「千輝姫が得意としていた術だよ。
封印させたまま、その魂を生まれ変わらせることが出来るんだ。
封印っていうのは、徐々に封印させた者の力を奪っていく。
でも転生させる事で力が失わずにいられるんだ」


「どうしてそんな必要があったんでしょうか・・・」


「そうだよな・・・って!!!! うわぁあああ!!!」


洸大は悲鳴に近い声をあげた。
怖いものを見たわけではないが、とても恐ろしいものを見てしまったのだ。


「きゃははは!! ぽんぽんって音が鳴るー!」


九尾が楽しそうに木魚を叩いている。
その様子に洸大は声をあげたのだ。


「バカ!! 何やってんだよ!!」


「遊んでるのー」


「これで遊んじゃいけないの! これは木魚っつってだな!?」


「きゃははは!! ぽんぽんぽんぽん!!」


「だー!! だからそんな勢いよく叩くな! それは爺ちゃんなんだぞ!? もし壊れたりしたら・・・」


想像するだけで、洸大は全身の血の気が引いていくような気がした。
爺ちゃんほど怒らせたら怖い人間などいない。
そこらの妖怪以上に、切れた爺ちゃんは妖怪なのだ。


「うにゅう!!! ぽんぽんで遊ぶのー!!!」


木魚を奪われた九尾は頬を大きく膨らませて、バチで洸大を叩き始めた。


「いった!! こんの・・・!! それで人を殴んな!! 危ないだろーが!」


「にゅー!! ぽんぽん! ぽんぽん!」


「っせーな!! 絶対触らせねぇ!!」


さっきのシリアスな展開はどこかに去ってしまい
まるでコントのような、明るい雰囲気が部屋中を包んでいる。
愛美は二人のやり取りに爆笑し、烏羽も口を押さえて体を震わせていた。



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