「じゃあ、何かあったらすぐに愛美をよこしてくれ。飛んで行くから」
「ありがとう、烏羽さん」
「いや、別に構わないさ」
烏羽は微笑んで、階段を下って行く。
烏羽の姿が完全に見えなくなると、洸大達は家へと戻ろうとした。
洸大の手を九尾がしっかりと繋いでる。
「あのね、九尾あの人知ってるんだよ?」
「は?」
「烏さん!」
自慢そうに言ったが、間違っている。洸大はため息をついた。
「烏じゃなくて烏羽! 烏なわけないだろ、失礼な」
「みゅ? 烏さんだよー! 烏!」
「だから烏羽だってば。何ムキになってんだ」
「みゅう・・・烏さんなのに」
九尾は耳を折りたたんで、何故か怒っていた。
「さて、問題は母さん達にどう説明するかだな」
「そうだね、この子の事も話さないといけないし、倉庫であった事も伝えないといけないし」
「爺ちゃん、ショックを受けて倒れなきゃいいけどな」
倉庫の守りは完璧だと言い張っていたじじいだ。
そこに巨大な妖怪がいたとわかれば、自信が無くなって熱を出してしまうかもしれない。
まあ、過剰なところがそれによって治るかもしれないといういい薬になるかもしれないが。
「とりあえずお母さんたちが帰ってくるそれまでは一緒に遊ぼっか、九尾ちゃん」
「うん! 遊ぶ遊ぶ!」
「・・・・・・・・たく」
能天気な二人に、洸大は苦笑した。
外が暗くなってきた頃、家族全員が帰ってきた。
神社の大広間に全員が集まり、春元の両隣には洸大達の母、絵奈と父、春輝が座っている。
向かいには洸大と愛美、そして九尾が楽しそうに座っていた。
「これが・・・伝承されていた八百万の部下、九尾・・・」
「なんだか・・・想像と少し違うわねぇ」
「違うというか、随分と可愛いらしいというか・・・」
爺ちゃん達はどう反応していいのか戸惑いを隠せていない。
それはそうだろう。
脅威の妖怪の1匹とされていた九尾がまさか10歳くらいの少女で、性格までも子供なのだから。
「それにしても、あの倉庫には千輝姫による妖怪避けの結界が張られてある。
なのに妖怪が姿を保ったまま現れるとは・・・」
「そうじゃの。
この現世の妖怪では考えられぬことだ」
親父と爺ちゃんは凄く難しい顔をしていた。
正直言うと、そこまで難しい顔になる事なのかと少し思う。
元々、そういう結界というのは永久というわけじゃない。
いつかは絶対剥がれてしまうものだ。
だから千輝姫が張ったからといって永遠に結界が破壊されることなんて無いんじゃないかって思うのだが
二人からすればそうじゃないらしい。
絶対なんて無いって言っていたのは、爺ちゃんだろうがって話だけど。
「とりあえず、その妖怪を倒したのはこの子みたいなの。
私と先生が見た倉庫から溢れていた光は、きっとこの子の物だったんじゃないかな」
愛美が九尾の方を見ると、ちょうど九尾と目が合った。
二人はニッコリ微笑んだ。
「・・・九尾が千輝姫の生まれ変わりである洸大を助けたということは、やはり洸大の言っていた夢の『契約』だからか・・・?」
「多分、そうだと思うけど・・・」
なにせ、本人は俺が契約者だって事しか覚えていないのだから、確認のしようが無い。
九尾は自分の話をしているとはまさか思っていないので、楽しそうに辺りを見回していた。
「・・・まあ、何はともあれ、この子のおかげで洸大が傷つかずにすんだのよね」
「母さん」
「助けてくれた子は決して悪い子じゃないと私は思うのだけれど・・・間違っているかしら?」
絵奈の言葉に、誰もが否定しなかった。
「・・・そう、だな。絵奈さんの言う通りじゃ。
孫を助けた妖怪が悪い妖怪のわけがないの」
予想外というか、驚きを隠せないというか。
正直、母さんと親父は可愛いもの好きだから、九尾に対して嫌悪感などは抱かないだろうと予想はしていた。
でも、爺ちゃんは昔の人間だから、八百万の仲間だったというそれだけの情報で九尾を祓うんじゃないかって思っていた。
だから、まさかこんな事を言うなんて・・・。
誰もが驚いた顔で春元を見ていた。
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