金の髪と9の尾を持つ、10歳児くらいの少女。





その純粋無垢な瞳は、一直線に洸大を見つめていた。









第2話 結びの名前









夕焼け空が見られる時間が少なくなり、陽が落ちるのが早くなっているのは夏が終わりを告げているから。
倉庫での出来事はほんの30分くらいのものだと感じていたが、実際は何時間もの時間が過ぎていて
窓から見える空はもうすぐオレンジ色へと変わろうとしていた。




「なんだろーこれー! 綺麗な音がするー!」




アヒルのおもちゃの中には鈴が入っており
手で勢いよく揺らすとチャリンチャリンという音が部屋を響かせていて
その音に九尾はキャッキャと楽しそうにしている。
そんな彼女の姿を、3人はただ黙ってみている事しかできなかった。





九尾。


大妖怪八百万の仲間として千輝姫と戦ったとされる化け狐。
狐の妖怪の力は尻尾で強さが現れており
9本の尾を持つ九尾は狐妖怪の中でも随一の力を誇っていた。
妖怪大戦争の時、勇敢にも千輝姫はそんな九尾に立ち向かい、封印した。
九尾の力は主に天変地異の力で、自然の力を利用する。
大雨を降らし、雷を落とし、強い突風が行く手を遮る。
そして口から吐かれる炎、狐火は鬼の炎にも次ぐ熱量だとされている。

そんな恐ろしい九尾。
洸大の夢の中に神々しく現れたと思えば
3人の目の前で子供のようにおもちゃで遊び楽しそうに遊んでいる。


話に聞く九尾とは程遠い姿であった。



「・・・どうするのよ」


愛美がこそっと洸大に話しかけた。


「どうするって、言われても」


ため息をつきながら洸大は九尾を見た。
九尾はおもちゃや家具を物珍しそうに見ては触り、驚いては楽しんでいる。


「どうしようもないだろ」


とりあえず家に連れてきたのはいいが、3人はこの状況をどうしていいものかわからなかった。


なぜ倉庫にあんな妖怪がいたのか

なぜたまごからこんな少女が現れたのか。

洸大の夢とどんな関係があるのか。


色々考えようとはしているのだが
目の前にいる少女が気になって仕方がないのだ。


「大妖怪の片腕とまで呼ばれていた妖怪が、まさかあーんな可愛い女の子だなんてね」


「まさかというかなんというか、まさに予想外って感じ。
自分で言っといてなんだけど、本当に九尾なのかって思うよ」


尻尾の数で勝手に九尾と決め付けてしまっていたが、実際には違うかもしれない。
いや、事実俺は夢の中で九尾と出会っている。
だから間違えるはずがない。
少なくとも夢の中の九尾は狐の姿をしていた。




「いや、あの女の子は間違いなく九尾だ」




烏羽は睨むようなまなざしで九尾を見ながら言った。



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