しんとした空間、何も見えない暗闇。

ああ・・・またこの夢か。
もう何度目だろう?

こう毎日毎日見ると、さすがに不気味さも薄れてくる。
こういう時、人間の「慣れ」というのは凄いとほんと思う。
そして、こう何回も同じ夢を見る俺は、もっと凄いんじゃないかとも思ってしまう。
まあ、望んでみたい夢でもないんだけども。

ただ、やっぱり自分の意思とは違って、深い闇へと身体は進んでいく。
いや、感覚としては落ちているようだ。
止まることなく、どんどん落ちていく。
ボコボコと無数の泡が横をすり抜けていく。
泡に触れて、少し冷たい感覚が襲う。


・・・・・え? 冷たい?


どうして夢で、冷たいなんていう感覚があるんだ?
これは、夢じゃないのか?


「うわっ!」


暗闇の奥が急にまばゆく光り始めて、目を細める。
なんだろう、いつもの夢とは違う。


まぶしさに耐えながら、それでも身体はその光へ進んでいく。
ずっと進んでいくと、光の奥から何かが見え始めた。

逆光で、何かははっきり見えないが、その大きさはかなりのものだろう。
中心から、たくさんの何かが出ているように見える。
尻尾だろうか?

どんどん進んでいくごとに、その姿ははっきりとしていく。
金色の毛、顔には赤い刺青のような模様。
普通の物よりも数倍の大きさの身体。
8本の尻尾の真ん中から大きな尻尾が生えている。


そして、その顔は・・・実際には見た事はないが、何かで見たことがある。



そう



これは・・・狐だ。


狐が、俺を見ている。





「九尾・・・?」





そう呟いた自分に驚いた。
こんなの、見たこともないのに、どうしてそう呟いたんだろう?
でも、確かにそう思った、この化け物みたいな狐は
間違いなく九尾という名前だと。



(・・・貴方とこうして会うのは何千年ぶりだろうか)



金色に輝く九尾の声が、直接脳に響く。


(もうすぐ、あいつの封印が解ける頃だ。だからこうして、私から貴方に会いに来た)


あいつ…?


(貴方自身は覚えていない。
だが、遠い昔の貴方と私は契約を交わしたのだ)


遠い・・・俺? 契約って、なんだよ。


(いずれわかるだろう。この意味も、そしてあいつの事も)


いずれって・・・。


(・・・あいつの封印が解けることにより、その周辺に封印されていた妖怪も復活を遂げる。
そして、その妖怪は・・・貴方を狙うだろう)


なっ・・・!! なんで!?


(貴方が憎いからだ)


なぜと聞き返す前に、金色に光る九尾はさらに輝きを増して、そして綺麗な声を響かせた。


(私の名は九尾。契約により、貴方の助けになる事を誓おう)


その瞬間、無数の光の球が勢いよく飛び出して、覆っていた闇を照らし出す。
そのあまりにものまぶしさに、俺はついに目を閉じてしまった。



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