ゴツンというベッドから落ちた衝撃で、目を覚ました。
ぼやける意識で辺りを見回すといつも見慣れた自分の部屋だった。
あれからいつの間にか寝てしまっていたらしい。
うつろな目で携帯を開けると、既に9時を過ぎていた。
「・・・意味がわからん」
携帯を閉じて、大きくあくびをすると洗面台へと向かった。
顔を洗い終えてリビングに行くと、家族でない男が
普通に食卓に座りご飯を食べていたので俺は大きく目を見開かせた。
「・・・・か、烏羽さん?」
「あ、洸大。
おはよう、お邪魔してるよ」
烏羽さんはさらっとそう笑って、またテレビを見直した。
え? え?
なんで朝っぱらからこのひとがいるんだ・・・?
「あ、あの・・・?」
「ああ、朝食なら炊飯器にごはんが残ってるから、ふりかけでもかけて食べなさいっておばさんから伝言もらってるよ」
「いやいや、それも重要だけど今はそんな事じゃなくて
なんで烏羽さん、朝っぱらから俺の家にいるんですか?」
「え? 用事があるからだけど」
「・・・? 姉貴に、ですか?」
「いや、今日は洸大にだよ」
「え? 俺?」
その瞬間、昨日の事を思い出した。
そうか・・・俺の事を気にしていたのは、この人だった。
「すいません、気使わせて」
「いやいや、別にいいんだよ。
体調自体は大丈夫だって愛美からは聞いてるけどさ」
「はは・・・本当に体調は大丈夫なんですよ」
「みたいだね。ただ、変な夢を見てるんだって?」
「・・・・まぁ」
「どんな夢なんだ?」
「え? あー・・・別にたいしたことじゃないッスよ」
「いいから」
烏羽さんの表情は、凄く真剣だった。
一体、なんなんだろうか。
「・・・声がするんですよ、どっからか。会いに行く、とか、もうすぐだ、とか。
お前の力を自分の物にする、とか、わけわかんない事を」
「・・・・そうか・・・・やっぱり、もうすぐなんだな・・・」
それだけ言うと、烏羽さんは眉間に皺をよせてむずかしそうな顔をした。
な、なんなんだよ、一体。
俺の夢が、なにか問題でもあるんだろうか。
聞きたいけど、そんな雰囲気でもなくて口にすることができない。
「あ、あの・・・・烏羽、さん?」
「え、あっ・・・・ご、ごめんごめんっ」
おそるおそる声をかけると
烏羽さんははっと気付いて、そして慌てて笑顔を作った。
「あの・・・なんかあるんスよね? 俺のこの夢」
「いや・・・別に、何かっていうほどじゃないんだけどさ」
「でも何かあるんでしょ?」
「・・・・まあ、なんていうか・・・」
烏羽さんは口ごもった。
イライラする。
なんか、すっげーイライラしてきた。
「・・・烏羽さん、俺、昨日は違う夢を見たんですよ」
「え?」
「でっかい九本の尻尾の生えた狐が出てくる夢です」
「! まさか九尾・・・か!?」
「はい。その…九尾が俺に言ったんです。
封印されていた奴が復活する、俺を狙ってくるって」
「・・・・・・・・」
「烏羽さん、俺が見ている夢は一体何なんですか?
あんた、なんか知ってるんでしょ!?」
「・・・・・・・・」
烏羽さんは複雑そうな顔をして立ち上がった。
「烏羽さん!!」
「…悪いが、今のお前にはまだ言えない」
「どういう事ッスか!?」
「そのままの意味さ」
「烏羽さん…!!」
それだけ言うと、烏羽さんは慌しく家を出て行ってしまった。
静けさが辺りを包む。
「何なんだよ、何なんだ!!」
襲い掛かる不安とふつふつとこみ上げる怒りを
言葉にして言い放っても、答える人は誰もいない。
「…はぁ。飯食おう…」
悩んだって仕方が無いんだ。
多分、色々…あるんだろう、ほんと、色々。
「たく、嫌な休日だなぁ…ん?」
おわんにご飯を盛ろうとした時
机の上に置手紙があることに気がついた。
俺宛に爺ちゃんからだ。
「爺ちゃんから…? なんだろ」
封筒を開けて見てみると
小さいメモ用紙くらいの紙に一言、こう書いてあった。
「裏倉庫の掃除が出来ていないので
朝起きたら絶対にやっておくように。
あと、何かいるかもしれないのでその時は祓っておくように」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
雑用かよ。
こっちは一週間の疲れを癒そうと必死なのに。
「たく、相変わらず重労働はやんねーじじいだよな!」
じじいの手紙をくしゃくしゃにして
ストレスを発散するかのように、ゴミ箱へと投げつけた。
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