「とかしてるくせに、やっぱり来ちゃうんだよなー…」
俺の目の前に聳え立つでかい倉庫。
何千年も前からあるといわれている裏倉庫だ。
中には昔からの貴重品が並べられており
冠婚葬祭の時にしか見られない物も存在している。
また、古い物が置いてある場所というのは
色んなものが憑いていたりするわけだ。
掃除、なんて言っていたが
実際は物祓いをしてこいって意味なんだろう。
たく、疲れる事は全て俺任せにしやがって。
なんて愚痴っても仕方がないので
腹をくくって倉庫の中に入ることにした。
大きな木造の扉は開ける際にギィィと重い音を鳴らす。
その時、時々ミシミシという音が倉庫全体から聞こえるので
開けただけで壊れてしまうんじゃないかと心配になる。
「それしにても、相変わらず嫌な臭いがする所だな…」
ほこりやカビだけの臭いではないだろう。
時々吐き気を催すこの臭いは、霊媒師が感じる「悪霊の気」
たとえ神社の倉庫であっても
古いものにはそれなりの物が憑きやすい。
といっても、ここは強い力に守られているから
悪霊以下の弱いやつしかいないんだけど。
「さて、やっていきますか」
俺は近くにあった古いつぼに触った。
すると、そこから昨日の女子に憑いていた黒いモヤが飛び出してきて
それを手風で吹き消す。
「まさか一個一個に憑いてるんじゃねぇよな…?」
それってかなり面倒臭い。
やめたくなる衝動に駆られるが
やらなければじじいに何を言われるかわからないので
仕方なく祓いの作業を続けていく。
倉庫は電気の無い薄暗く明かりは入り口から差し込む光しかないので
早く済ませてしまわなくては…正直、怖い。
苦手なのだ。
こういうところは。
「たく、現代なんだから電気をつけたって別にいいと思うんだけどな」
そうつぶやきながら、小さい筒を手に取った。
「!」
その瞬間、凄まじい悪寒が俺の体全体を襲った。
モヤとは違う、もっとアブナイもの。
やばい!
かなりの危機感を感じて、筒を地面に放り投げた。
筒はカランカランと音を立てて、地面を転がる。
『古来からの・・・・・怒り・・・・・・』
「え・・・?」
何かが頭の中に直接語りかけている。
地獄の底から出しているような、どす黒い声。
『我らの恨み・・・・・晴らさずにおくべきか!!』
筒が小刻みにゆれ、中から現れたのは牛のような大きい角を生やした
天井までの高さとほぼ同じくらいの化け物。
小さい頃、修行だと言われて連れてこれた時に見たような…
化け物…そう、妖怪。
「なんで…こんな妖怪が…!!」
ここは仮にも千姫神社の中だ。
この領域内は千輝姫の力に守られているから
妖怪達は原型をとどめることが出来なくて
モヤ状になるしか存在できないのに!!
『恨み・・・・我らの・・・・恨み・・・・・』
妖怪は鋭い形相で俺を睨みつけている。
怖い。
やばい怖い!!!!
「う…恨みってなんだよ!!! なんのことだよ!!」
恐怖感を消すために声を必死に張り上げる。
足がガクガクだが、気を失うわけにはいなかい。
『シラを・・・切るつもりか・・・!』
「だから、シラとかじゃなくて
知らないから聞いてるんじゃねえか!!!!」
『黙れ、千輝姫よ!!』
なっ・・・・!?
「千輝…姫だって・・・?」
『貴様によって殺された我が同胞がどれだけいたと思っている…!!
ああ・・・同胞の恨みが、恨みが我に力を与えている!!
貴様を殺すための力を!』
妖怪はそう叫ぶと、勢いよくその大きな手を振り下ろしてきた。
「くっ!」
間一髪といった感じに、かろうじで妖怪の攻撃をかわす。
ガァンッ!!という強い衝撃音が倉庫内に響き渡り
振り下ろされたところには大きな穴が空いて
そこから埃煙が出てきていた。
その状況に、サァァッと血の気が引く。
避けられなかったら…間違いなく死んでいた。
『恨み・・・・・恨み・・・・・』
ハッと気付けば、妖怪はまたこっちを睨んでいた。
どうすればいい?
どうすればいい!?
お札などは全て実家に置いてある。
手ぶらでは何もできない。
こんな大きな妖怪だ。
手で触っただけでは消えることなんてないだろう。
「(なんで俺が狙われる必要があるんだよ!!
たいだい、千輝姫って俺じゃないし!!)」
なんて思ったところで、この状況は打破できない。
なにか、何かないか。
『死ねェエエ!!!!!!!』
「くそっ!!」
妖怪の攻撃を避けて、俺は奴の視覚に見えないところへ隠れた。
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